微風のクローズで『リーチが硬い、もっとツイストさせて!』とか、順風のクローズで『ツイストが大き過ぎる、もっとリーチテンションを入れて!』とか、アビームで『バングの抜きが足りないぞ!』とか、軽風のランニングで『バングを抜いてツイストを大きくして』とかいうようなアドバイスを良く耳にするが、何故ヨットではセイルをツイストさせる必要が有るのだろうか?
風が海面とマストトップ付近で同じ風速と風向ならば、ジブセールによる偏向分だけのセイルツイストだけで良い筈である。
では、皆さんが乗っているディンギーのような高さが6m位の海面近くの風はどうなっているのだろうか?
“海と船に関する諸々の事項”(http://homepage1.nifty.com/RINZO/SHIP/SEA01.HTM)を見ると、風の傾き(Wind gradient)という項目で、高さ方向に風速が異なっていることが説明されている。上空の方が海面や地上よりも様々な摩擦抵抗(粘性による)の影響が小さいので風速が強い事は当然の話である。ビルの屋上に上ったりすると風が強いなと感じるだろうし、山の頂上付近でも風が強いのを体験する。
一方、地上や海面に非常に近い場所ではどうかというと、結構風のある日でも公園の芝生に寝転がったりすると意外と風が弱いのを体験したりするし、海上での表面波の速度は感じる風よりもずっと遅いことからも、境界付近に近づくにつれ粘性による摩擦抵抗(friction)の影響で流体速度が著しく低下している事が理解できるでしょう。このように、一般に高度の低い場所より高い場所の方が、風速が大きいというのは感覚的にも理解出来るのではないでしょうか。
(計算式省略)
高さ1mというのはスキッパーが顔で感じる風の高さ位だから、トップバテン付近では感じている風よりも3割程強い風が吹いていることになる。揚力を考えると風速の2乗に比例するので単純に考えても上部に大きなセイル面積を持つほど揚力の最大化という観点からは有利になる。もちろん転倒モーメントも大きくなりはしますが。
では、高くなるほど風速が増加すると見かけの風向はどうなるのだろうか?
クローズでの見かけの風が高さ方向にどうなるかをベクトルで考えてみよう。上記の真の風速で、艇速が4.0 m/s、艇進行角度(アングル)=45.0度として計算してみると、
海面からの高さ(h) |
見かけの風向(α) |
風速 |
第1バテン(h≑5.1m)地点 |
19.1度 |
5.32 m/s |
第2バテン(h≑3.8m)地点 |
19.7度 |
5.08m/s |
第3バテン(h≑2.4m)地点 |
20.6度 |
4.71 m/s |
1m(ブーム直上不付近) |
22.6度 |
4.00m/s |
というように、ブームの高さ付近に比べて第1バテン付近では見かけの風の傾斜角度は3.5度風上側に振っていることになる。仮に、高さ方向でのそれぞれのセイル断面での見かけの風との迎角を同じにするとここでツイストが発生することになる。実際にはジブによる風の偏向を考えるとジブとオーバーラップしている第2バテンより下方では、剥離(ストール)させずにより迎角を大きく出来るので、実際のメインセイルはよりツイストした形状となるはずである。また、アビームでもベクトル図を作ると分かるのだが、この風の傾斜は8.1度とクローズの2倍以上になる。
ここまでで、ランニング以外(揚力を用いる場合)ではセイルのツイストが何故必要なのかは理解出来ただろうか。
次に、軽風と順風と強風と言うような異なる風域ではこの風の傾斜はどういう特性を持つのだろうか?更に一歩踏み込んで考えてみよう。上記に挙げた近似式はかなり風が安定している場合(強風)のものと思われる。かなり以前のヨット協会誌か何かで、外国のオリンピックコーチがゴムボートにマストと同じ高さの棒を立て長いリーチリボンみたいなのを1m間隔くらいで取り付けて、ディンギーと同じ角度と速度で併走しているのを真後ろから撮影した写真があった。これを見ると、確かにリーチリボンは高さ方向に傾斜を示しており、3m/s程度の軽風ではツイストが割りと大きく、4~6m/sの順風ではツイストが最も小さく、7m/s以上の強風では再びツイストは大きくなっていた。これについて、層流と乱流という流体力学用語を使って説明していた。4~6m/sの順風時に風が最も高さ方向にも一様に流れようとするから(層流状態)であるとしていたように記憶している。直感的には何となく分からない事もないような気もする。
http://members2.jcom.home.ne.jp/kyutama/theory1.html引用
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